教育の多様化:フリースクール増加で解決できる?

はじめに:増え続ける教育の選択肢

近年、日本の教育現場ではフリースクールやオルタナティブスクールと言われる多種多様な教育理念やカリキュラムを持つ学校が誕生しています。
不登校児童の増加や多様なニーズに応えるための解決策として注目を集めています。文科省もR5年に「COCOLOプラン」を通じて個別最適な学びを補償する観点から、フリースクールとの連携をうたっています。確かに公教育のセーフティネットとして果たす役割は大きいともいえます。
しかし、現時点では学費の問題や、公教育との連携など課題も多そうです。学習指導要領や義務教育の意味も問い直す必要もありそうです。
文科省は「個別最適な学びと協働的な学び」をセットで提案しています。このお互いを補完しあう学びがあるかどうかが、選択のポイントにもなりそうです。
ただ、選択肢が増えることが、子どもたちにとって望ましいか、それぞれの子どもの発達段階に応じた必要な教育スキルは何でしょうか?
今回は、フリースクールの増加がもたらすものについて考えてみたいと思います。

1:選択肢が増えるということは・・・

選択肢が多いことは、一見すると良いことのように思えます。子ども一人ひとりに合った教育環境を選べる可能性が広がるからです。しかし、その一方で情報過多による混乱や、どの選択が最適なのか判断が難しくなるリスクも存在します。多くの選択肢があることで、かえって子どもたちや保護者が迷ってしまうことはないでしょうか。
発達心理学の観点から見ると、個別支援や少人数制のスクールや選択肢が増えることには多くの利点がありますが、同時に課題も存在します。多様な価値観をもつ集団の中で学ぶことは、子どもの成長には必要です。
よく「子どもは先生を選べない」と言われ、そのことをネガティブに捉えがちです。もちろん、教員が資質能力を高めることは必要です。しかし、人生において、全て自分の思い通りになるなどと言うことはないはずです。良くも悪くも子ども自身がどう受け取るかは子ども側の問題であって、個別最適な教育に、これといった正解などなさそうです。だからこそ、子ども自身が主体的に人生を切り開けるような教育の質を維持しつつ、多様な学びの場を提供するための取り組みが求められます。

またフリースクールが増えることで、教育現場に市場原理が持ち込まれ、不適切な競争が生じるリスクも考えられます。教育や子どもがビジネスの対象となり、利益追求が優先される恐れはないでしょうか。教育の質をどのように担保し、公正な環境を維持するかが重要な課題となります。

既存の支援体制との違いは?

日本には既に、特別支援教室や通級指導教室、放課後等デイサービス、適応指導教室など、多様な支援体制が整っています。これらは、不登校や発達障害などさまざまなニーズに対応するためのものです。では、新たに生まれるフリースクールはこれらと何が違うのでしょうか?その独自性や付加価値は明確でしょうか。
オルタナティブスクールの増加によって、既存の教育システムへの批判が高まる傾向があります。しかし、新しい学校を次々と作ることが本質的な解決策なのでしょうか。教育改革の目的や目指すべき方向性を見失わないために、現状の問題点を深く掘り下げ、根本的な原因にアプローチする必要があります。

少人数制教育の限界と可能性

少人数制の教育は、子ども一人ひとりにきめ細やかなサポートを提供できる利点があります。しかし、必ずしも全ての子どもにとって最適な環境とは限りません。多様な人間関係や集団生活の中で学ぶことも、成長には欠かせない要素です。少人数制の持つ可能性と限界を正しく理解することが必要です。

公立学校の取り組みと可能性

一方で、公立学校でもSEL(社会的・情動的学習)やポジティブ行動支援などの取り組みによって、集団の力を利用することで、不登校児童が減少した事例もあります。既存の学校のもつ良い点も認めつつ、改善すべきところを洗い出し教育環境を整えることで、多くの問題が解決される可能性があります。
既存の枠組みを少しだけ変えることで、子どもたちが元気に通える場所に生まれ変わることができるのではないでしょうか。今までのやり方で成功した例もあるはずです。管理職にはその学校独自の文化や歴史を把握したうえでの冷静な判断と舵取りが求められています。

2親と教師のエネルギーが子どもを元気にする

教育環境を良くするためには、なにより、まず親や教師が夢や希望をもって、元気であることが大切です。大人たちが生き生きとし、前向きな姿勢で子どもたちに接することで、自然と子どもたちも元気になります。子どもは模倣の天才です。「親の背中を見て育つ」ものだと言えます。新しい施設や制度を追い求める前に、子どもを主軸に身近なところの良い面を認めつつ、少しづつ改善を始めることが大切ではないでしょうか。

教育の未来を一緒に考えるために

ちなみに文科省は、令和の日本型学校教育構想として、以下のポイントをあげています。

個別最適な学びと協働的な学びの実現

文科省は、すべての子供たちの可能性を引き出すために、個別最適な学びと協働的な学びを重視しています。これにより、子供たちが自分のペースで学びながら、他者との協力を通じて成長することを目指しています。
個別学習や自己学習の時間はもっと増やすべきで、ICTツールの活用や学習プランの作成が必要です。

一方で、グループディスカッションやプロジェクトベースの授業、共同制作といった活動を通して、生徒同士が意見交換や知識の共有を行う時間を設定します。個々の視点が集まり、新たな発見や創造性を促進する場となります。
現場にいると、子どもたちの興味と認知能力にはかなりの個人差があるので、学習内容を子ども自身で選択させたり、STAM教育や教科横断的な学習を推進するには教師の専門性と力量が益々問われるかもしれません。小学校でも専科制が導入される動きもあります。

ICTの活用

新しい学習指導要領では、ICT(情報通信技術)の活用が強調されています。GIGAスクール構想の実現により、デジタルデバイスを活用した学習環境が整備され、個別指導や学習履歴の管理が容易になります。単なる知識伝達型の教育から、「探求の時間」が組み込まれ、生徒自身で課題発見し、プロジェクトに取り組む課題解決型の教育にはICTの活用は効果的です。
専門高校では、従来から「課題研究」という科目がありました。これらで成果をあげるためには、子どもの知的好奇心とそれを引き出す教員の研修は不可欠です。コーチング的な関わりが益々必要になってきます。

インクルーシブ教育の推進

特別支援教育を含むインクルーシブ教育システムの構築が進められています。特別支援教室は年々増えていますが、障害のある子供とない子供が共に学ぶ環境を整えることで、すべての子供たちが適切な教育を受けられるようにすることが目指されています。やはり専門性をもった教員の確保が必要です。

キャリア教育の充実

社会的・職業的自立に向けたキャリア教育が重視されています。これにより、子供たちが将来の職業選択や社会参加に必要なスキルを身につけることが期待されています。
文科省の取り組みは、教育の質を向上させるための多角的なアプローチを含んでおり、子供たち一人ひとりの成長を支えることを目指しています。だからこそ、多くの人々が協力し合い、多角的な視点で教育の未来を考えていくことが重要です。選択肢の増加だけでなく、既存のシステムを見直し、改良する道も探ってみませんか。

子どもたちが安心して成長できる環境づくりのために、今こそ立ち止まり、皆で一緒に考えていきましょう。